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かなざわ人物語

エリアマネジメント

2021.04.21

地域の人たちをつなげ、金沢区の課題を解決していく“街づくりの立役者” SDGs横浜金澤リビングラボ主宰 今村美幸さん

SDGs横浜金澤リビングラボ主宰今村美幸(いまむらよしゆき)

横浜市金沢区

金沢八景駅前の活性化と賑わいの創出を目的として、2018年に発足した「SDGs横浜金澤リビングラボ」。

一般的にリビングラボとは、マーケティング手法の一つ。企業が新しい製品を開発する際、開発プロセスの段階で消費者からアイデアをもらいながら商品開発を行います。「SDGs横浜金澤リビングラボ」ではエリアマネジメント型リビングラボとして、住民や地元企業の方などと一緒に話し合いながら、地域ブランディングを目的に地域の課題解決に取り組んでいます。

団体の立役者となっているのが、今村美幸さん。立ち上げの経緯や地域の方々との関わりについてうかがいました。

地域を巻き込んだ仕組み作り

SDGs横浜金澤リビングラボ」では、これまでに様々な地域参加型のプロジェクトを立ち上げてきました。地元で採れた唐辛子と8つの素材を使って作られ、金沢ブランド認定商品にも選出された「金澤八味」もその一つ。リビングラボが企画の中心となり、原材料となる唐辛子やシソの栽培は地元の農園や小学校、福祉施設に協力してもらって製造しています。

そのほか、商店街の方と一緒に駅前のイベントを企画するなど、活動は多岐に渡ります。

「私が行っているのは、地域の皆さんに課題を提起してもらい、解決に導くために必要な人を呼んできて、そのプロジェクトを立ち上げるまでの仕掛けを作ること。実際に手を動かすのは地域の方々なので、私は口だけ出しているような感じなんです(笑)」

歴史のある金沢区一帯は、地域資源も豊富。横浜で唯一の海水浴場を持つ「海の公園」や、農家、寺などが多くあります。一方、横浜市内では人口減少や高齢化が最も進んでいる地区であることが課題だそうです。

「まずは金沢区の認知度を上げること。定住人口ではなく、地域に関わる人を増やすことを目的に活動しています。例えば地域産品を作る際にも、ただ販売されたものを手に取っていただくのではなく、栽培や収穫体験など、原材料を育てる過程から関わっていただくとか。そのためには区内・区外問わず、たくさんの人を巻き込んでいく仕組み作りが重要なんです」

自分たちでこの街を作っていくために

今村さんが活動を始めた当初は、金沢八景駅前の土地区画整理事業に携わっていたそう。土地区画整理事業が完了した今も、金沢区との関わりは続いています。

「私にとっては、街づくりに関わるのが生きがいのようなものなんですよね。主に大規模再開発にかかわる仕事をしていますが、地域の方と触れ合いながら、街の在り方を語り合っていくことがやっぱり好きなんです。もはやライフワークのような感じでしょうか」

元々「地元に対する意識が高い街だ」と言われる横浜の土地柄なのか、リビングラボに関わる人たちは自分たちで地域の課題解決や街づくりをしていく意識が非常に高いといいます。

「決して人任せにしないんですよね。『自分たちでこの街を作っていくんだ』という気概をいつも感じます。

その中で私ができることは、これまで培ってきたネットワークを活かし、課題解決に役立つサポートをすること。皆さんそれぞれ得意分野がありますから、力を合わせてやりたいことを実現したり、何かを生み出したりしてもらえたらいいんじゃないかな、と思っています」

リビングラボの活動は「点を繋げていくような作業」

立ち上げから3年の時を経て「まだまだやりたいこと、チャレンジしていきたいことがある」と話す今村さん。

「例えば海水浴場のある『海の公園』には、海開きの前に大量のアマモやアオサが海岸に打ち上げられるんです。これまではこれらの海藻を焼却処分していましたが、地元の方から『農家の肥料として再活用できないか』という提案があったんです。そこで、リビングラボで産官学民が連携し、海藻の利活用を検討した結果、2021年度から大学や行政と一緒に、たい肥化に向けた研究を重ねるほか、地域の子どもたちへのSDGs教育も絡めて進めていくこととなりました」

最終的にはたい肥にしたアマモを使って育てる「横浜オリーブ」を育て、横浜ブランド商品として販売する計画もあるとのこと。

「長年、このアマモの活用に頭を悩ませていた人たちもいたそうなんですが、ずっと解決されないままで。そこにリビングラボがあらゆる方々と共創することによって、方向性が見えてきたことはうれしかったですね」

リビングラボの活動は、まるで「点と点を繋げていく作業」だと話します。さまざまな知見を持った方を繋げ、共に議論を重ねる中で問題解決へと向かって行きます。それまで点としてあったものが繋がったことで、行政区を横断するプロジェクトにまで発展しました。

「私が中心になって動かすのではない。皆さんの持っているものをただ活かしてもらうことしか考えていない」と、あくまで点を繋げていくための裏方に徹する今村さん。

決められた街づくりの計画に従うのではなく、地域の一人ひとりが自分ごととして捉えて、より良い街を自らの手で作ることができたのなら。巡り巡って、地域に住む人も増えていき、さらに魅力の多いエリアとなるのではないでしょうか。

「少子高齢化が進む日本のまちづくりにおいては、地域活動がビジネスにつながる仕組みをつくり、持続可能な社会をつくることが重要なんです」

山や海に囲まれ、自然も豊かな横浜市金沢区。現在の資源を生かしながら、これからもっと住みやすく魅力的なエリアへと発展していきそうです。

今村美幸(いまむらよしゆき)さん

SDGs横浜金澤リビングラボ主宰

2005年より、都市再開発における企画開発や事業推進、不動産コンサルティングに従事。2017年11月国内初の人工知能マンションとして地域課題を解決する持続可能な住宅地モデル事業「横浜MIDベース」(横浜市西区)を開発した。また、2014年からまち(団地・マンション)再生「暮らし再生プロジェクト」をブランディングし、空き店舗を活用して「井土ヶ谷アーバンデザインセンター」を創設した。そして、社会課題をIoT、AI、ビッグデータ、ブロックチェーンなどを活用して新たな商品開発を行う『リビングラボファミリー』や地域循環経済圏を創出する『SDGs横浜金澤リビングラボ』を立ち上げた。

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