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かなざわ探訪

クラフトビール

2021.11.29

料理の味を邪魔しない、こだわりの1杯をつくる。日本一小さなビール醸造所「横濱金沢ブリュワリー」

横濱金沢ブリュワリー・LaFusion菜na

金沢区能見台

能見台駅から徒歩1分の場所にある、創作和食「横濱金沢ブリュワリー・LaFusion菜na」。経験豊富なシェフ、藤井秀人さんが16年前にオープンしました。特徴的なのは、同店舗内でビールを醸造しているということ。

「自分たちの料理に、一番合うビールをつくりたい」

そんな思いから始まったビールづくり。おそらく日本で一番小さなビール醸造所ではないかと、藤井さん。それもそのはず。客席の一部を醸造所に変えたというスペースは、4.5平方メートルほど。普通の醸造所の10分の1以下の狭さの中でつくっています。当然できることが限られてくるため、省略できる工程を端折りつつも、美味しさを損なわないビールづくりのために工夫を重ねています。

横濱金沢ブリュワリーでは季節などで違いはあるものの、常時約8タップほどのビールを提供しています。レギュラーメニューは、どんな食事にも合う定番の「春風エール」や、優しい苦味が感じられる「横浜シーサイドIPA」、そしてフルーティーな香りと優しい味わいの「小柴レモンのハニーエール」。ほかにも、取材当日には地元のコーヒー焙煎屋から仕入れた豆を使った、「エスプレッソダーク」という黒ビールもありました。

こだわりは二つ。一つは「料理の味を邪魔しないビール」であることです。

藤井さんはもともと東京會舘でシェフを勤めた後、いくつかの飲食店を経て独立した、生粋の料理人。飲み物と食べ物のマリアージュが何よりも大切だと語る藤井さんは、これまでさまざまなオリジナルビールの醸造に取り組んできました。

例えば日ノ出町の高架下にあるカフェラウンジ『Tinys YOKOHAMA Hinodecho』で提供するための、オリジナルビールをつくったことも。屋外に開けた環境であるTinysでは、冬に鍋料理を提供するのがウリ。ここで藤井さんは、米粉やかつおぶしなどを使ったビールを提案したのだそう。

「最近は香りの強いホップを、ガツンと前に出す味わいのクラフトビールが主流になっていますが、日本人が好む食との相性が良いのか?疑問に思うんですよ。食べ物と飲み物。どちらが勝っても、ダメだという考えなんです。

だから料理に合うことはもちろん、ある程度の個性はありながらも、いつまでも飲み続けられる……そんなビールづくりを大切にしています」

もう一つのこだわりは、テロワールビールであること。「テロワールビール」とは、土地と土地の個性を活かしてつくられたビールのことで、メジャーメニューである、小柴レモンのハニーエールもその一つ。柴町のレモンと、福浦に工場を持つ「加藤美蜂園本舗」のアカシアのはちみつを使っています。はちみつの香りはしっかり感じられるものの、ビール自体に甘さはほとんど残っておらず、ビールが苦手な方でも飲みやすいのが特徴です。

さらにかつて大好評だったのが、横須賀の「やっちゃんトマト」を使ったトマトビール。普通トマトは、使うとビールが青臭くなるので敬遠される原料の一つなのだそう。しかし糖度が高いやっちゃんトマトを一口食べた藤井さんは、「これ、絶対に青臭くならないな」と確信したといいます。

「ビールはつくる過程で煮沸をしますから、煮沸したあと原料がどんなふうに変化するのかを想像できていないと、変なものができたりするんですよ」と藤井さん。

作った料理を、最大限楽しむためのお酒を提供したい。藤井さんの話を聞いていると、「シェフがビールをつくる」ということは理にかなったことなのだな、と感じます。

藤井さんの行動は、店の中だけにとどまりません。つくったビールを携え、イベントにも積極的に参加しています。4年前には自身が発起人となり、横浜・八景島シーパラダイスで「横浜金沢クラフトビール&グルメフェスタ」を開催。所属する日本小規模醸造協議会の協力のもと全国から醸造所が集まり、自慢のクラフトビールがふるまわれました。

「京急沿線にはほかにも、金沢文庫の『南横浜ビール研究所』さんや、『横須賀ビール』さん、『上大岡ビール』さんなど、クラフトビールをつくるお店が集中しているんです。駅ごとにビール屋さんがあるっていうのは、なんだかドイツっぽくて気に入っているんです」

横濱金沢ブリュワリーには、周辺にある大学の先生や、横須賀基地に住んでいる人など、アメリカ人やイギリス人も多く来店するそう。海外の人にはペールエールやIPAなど、ガツンと味わい深いビールが好まれるものだと思っていたら、意外にも「和食に合うビール」のほうが評価が高いといいます。

「 “和食に合う”というのは、それだけで万人に共通して好まれるんだということが分かったんです」

そうした経験を経て今後藤井さんは、ホップなどの原料も含めて「メイドインジャパン」にこだわったビールづくりにチャレンジしていきたいといいます。

「ビールをつくり始めるまえは、山梨の勝沼醸造さんのワインに合う料理をずっと考えてきました。勝沼醸造さんのワインは、海外でも評価が高いんです。たとえば現地でも和食を取り扱う機会は増えてきているんですが、そうしたときに合わせるワインは『勝沼の白じゃないとダメだ』というソムリエはたくさんいます。

和食の力はすごいですよ。僕は日本が和食の国であるということを誇りに思って、それを世界中の人に知ってもらえるようなビールをつくりたいんです」

能見台の小さな居酒屋の中にある、日本一小さな醸造所から始まる、大きな挑戦のはじまりです。

「商売も結局は人付き合いだから、お客様のとらえ方も千差万別。不特定多数の人に気に入られるよりも、コアなファンを大切にしながらお店を運営していきたいですね」と、地域でお店を経営していく上で、大切にしていることを話してくれた藤井さん。

コロナ禍でなかなか思うように飲食を楽しめないけれど、いつかこれまで通りの時間を楽しめる日が来たならば、ぜひ足を運んでみてください。和食に合うビール、料理、そして藤井さんの熱い想い。すべてが重なり合って、食事をするひとときがより一層豊かになる体験が、きっとできるはずです。

横濱金沢ブリュワリー・LaFusion菜na

能見台駅から徒歩1分の場所にある、経験豊富なシェフが16年前にオープンした創作和食「横濱金沢ブリュワリー・LaFusion菜na」。同店舗内でビールを醸造しているのが特徴。大きさは、普通の醸造所の10分の1以下ほどで、おそらく日本で一番小さなビール醸造所ではないかと、オーナーは言う。

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