かなざわ探訪
クラフトビール
2021.03.01
独学で始めたクラフトビールで地元のコミュニティづくりを目指す
南横浜ビール研究所
金沢区釜利谷東
「自分が飲みたいものではなく、飲んでくれる人を想像しながら、どんなビールをつくるか。それを決して疎かにせず、常に考えながら醸造を重ねています」
そう話してくれたのは、2016年に開業した「南横浜ビール研究所」の醸造責任者である荒井昭一さん。同店は金沢文庫駅から徒歩2分の場所にあり、1階が醸造所、2階がビアバーになっています。
つくりたてのビールをその場で楽しめることが魅力の一つ。醸造したビールは、瓶ビールとして持ち帰ることもできるほか、現在はネットで購入もできるそう。
開業して5年ほど経つ中、醸造回数はゆうに400回を超え、一つとして同じビールはつくっていないと言います。しかし、どうしてここ金沢区に、クラフトビール屋をつくることになったのでしょう。
ベトナムの「ビア・ホイ」をヒントに、独学でクラフトビールづくりを開始
「オーナーと私は高校の同級生なんです。地元の二人が、地元でビールをつくり始めた、という感じですかね」
数ある飲食店の業態の中でも、あえてクラフトビールを選んだのはオーナーがベトナム旅行に行った際に見かけた、あるものがきっかけだったそう。
「“ビア・ホイ”を売っている飲食店があったそうなんです。ビールは適当にざっくりつくられたものだったようですが、これが意外と味が悪くない。日本でも同じことができるのではないかと思いました」
ビア・ホイとはベトナムの生ビールの一種。通常のビールよりも安くて手ごろなことから、現地の人だけでなく海外のバックパッカーにも人気なのだとか。
当時、荒井さんは金沢区内でお父様の家業を手伝っていました。その会社を畳むことを決めたとき、もともとモノづくりが好きだったという荒井さんに、オーナーが声をかけてくれたと言います。
「流転の人生だった」と話す荒井さん。実はほぼ独学でビールをつくっているというから驚きです。
近所のお父さん、お母さんに愛されるビールを提供したい
「クラフトビールというと、地元で古くからやっている、いわゆる“地ビール”か、もしくはマニアックなものを提供しているかの二極化が進んでいるんですよね。うちはどちらにも振れたくない。原始的な設備で制約もいろいろと多いんですが、最近はコンテストにも定期的に入賞できるようになってきたんですよ」
ビールは常時5種類のタップがつながっており、うち4種はペールエールやヴァイツェンなど、誰もが飲んでおいしいと感じられる定番ビール。残りの1種は限定ビールで、過去には鶏ガラエキスを投入してつくったものも!
「動物性のアミノ酸を加えると、ビールがおいしくなるんです。鶏ガラエキスを使ったようなビールは奇抜に見えても、飲み物としてちゃんとおいしい、というバランスを大切にしています。金沢文庫にはビールマニアのような方はあまりいません。だからこそ近所のお父さん、お母さんに愛されるビールを提供したいんです」
来店客の多くは30代~60代の男女で、女性がひとりで飲みにくることも多いと言います。最年長の常連さんは、なんと94歳! 荒井さんを含め、周りのみんなが一緒になって、まるで自宅で過ごしているかのような感覚でビールを楽しめるのが人気の秘密です。
「以前、隣同士になったお客さんが実は同じマンションの住人だったことがありました。今ではゴルフや旅行に一緒に行くような関係になったそうで。今後も『あそこのビールおいしいよね!』とか『遠くから友人が来たから、うまいビールを出すあの店に連れて行ってやろう』とか……。そんなふうに街のみんなが知っていて、地元の方にとって、なくてはならないビール屋になるのが夢なんです」
少しずつ理想のお店に近づいているような気がする、と静かにうなずきながら語ってくれました。少しずつ、でも確かに歩みを進めて、ビールとコミュニティづくりを続けています。
◆店舗情報
南横浜ビール研究所