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かなざわ探訪

TUMUGI BAKERY

2022.04.25

人と人を “つむぐ” パン。「TUMUGI BAKERY」で元社会人野球 選手が焼き上げるシンプルイズベストなパンとは?

TUMUGI BAKERY

金沢区泥亀

横浜市金沢区役所近くにある、ベーカリー「TUMUGI BAKERY」。シンプルにおいしいパンを追究し、その味を求めて多くの人が来店します。ある年配の男性客は「ここのパンを食べてから、朝食はパンになったよ」と言い、長年の食習慣が変わった人もいるのだそう。

そんなパンを作るのは、オーナー・野村一則さん。かつて社会人野球チームで活躍した元ピッチャーでした。異色の経歴を持つ店主が焼き上げるパンの魅力に迫ります。

未経験で有名ベーカリーに就職。苦難の連続だった若手時代

2010年7月にオープンした「TUMUGI BAKERY(ツムギベーカリー)」。トーストにロールパン、ソーセージのパン、デザート系のパンなどが並ぶ店内には、近隣に住むおじさん、おばさんから、区役所帰りのベビーカーを押す女性など幅広い年代の客が訪れます。

店主・野村一則さん(47)は栃木県出身。結婚を機に横浜へ引っ越してきました。開店当初は金沢八景駅近くの自宅で製造販売していましたが、5年ほど前に現在の店舗に移転しました。

野村さんの経歴はほかのパン職人とは少し変わっているかもしれません。高校卒業後すぐに社会人野球チームに入団し、会社員の傍ら野球選手として活動していました。ピッチャーとしてチームを牽引していましたが、25歳の時に肩を故障。復帰時期が見通せないほどの怪我だったため、悩んだ末、野球選手人生に幕を下ろしました。

もともと普段の生活でも自炊をしていて、料理が好きだった野村さん。セカンドキャリアについて考えたときも自然と「食べ物の世界」に目を向けていたと言います。

「運良く有名ホテルのベーカリーで修行をさせてもらえることになったんです。知人の紹介だったと思いますが、未経験で修行を受け入れてもらったのは私だけでした」

ホテル併設だったため、宿泊客向けの朝食のパンや結婚式で添えるパンをつくっていました。パン作りは全くの未経験だった野村さん、入社当初は苦労の連続でした。調理系の専門学校などを出ていないため、パン生地を入れる四角いトレーなどの基本的な専門用語も分からず、先輩たちからは「そんなことも分からないのか」ときつい言葉を投げられたこともありました。野村さんは厨房の隅っこに立ってパン作りを眺める日が続いたそうです。

「何も分からなくて本当に辛くてやめたいと何度も思いました。でもパン職人たちがかっこよく映り、しがみついて頑張ろうと思ったんです」

否定的な気持ちになっても、目の前にいる職人たちのようになりたいという気持ちはどんどん強くなり、野球人生で培った根性を武器に必死に腕を磨きました。

3年後、有名ホテルのベーカリーを退職。その後は食べ歩き中に一目惚れした世田谷のベーカリーや、みなとみらいのベーカリーなどでさらに修行を積むことに。世田谷は地域密着型の店でしたが、世田谷という土地柄から、値段よりパンのクオリティの高さが求められました。一方、みなとみらいでは観光客などが主な客層で、見栄えのするパンが好まれたそうです。同じパンのお店でも全く違う特徴をもつ店での経験は今のパン作りにも活かされています。

“おいしさのためなら、手間を惜しまない”

野村さんが自分の店を持つことを考え始めたのは30歳を過ぎた頃でした。当時働いていた店の労働時間は長く、激務でした。プライベートでは結婚し子どもが生まれますが、なかなか子育てに参加ができなかったそうです。そうした中、自然と自分の店を持つことを考え始め、35歳のとき「TUMUGI BAKERY」をオープンさせました。

「手間と時間をかけて美味しいパンを作る」。これまで働いた店全てで、お金儲けより大切なことがあると学んだことです。これは「TUMUGI BAKERY」でも引き継がれています。

「シンプルに美味しいものを作りたいと思っています。パンの作り方は何通りもありますが、手間でもパンが一番美味しくなる方法で作っています。うちの店では、パンの生地を作るときに入れるイースト菌の量を減らして、発酵の時間を長くとるなどの工夫をしています。そうすると、味付けで加える砂糖などの調味料以外に、うまみが出てくるんですよ」

例えばフランスパン。ある店では3時間で生地をこねてから焼き上げまでを行いますが、野村さんは生地を24時間以上熟成させてから焼き上げます。3時間でも、24時間でも完成したフランスパンの見た目は変わらないかもしれませんが、味の深みは全く異なります。その時間をかけることがシンプルにおいしいパンをつくる秘訣だそう。

実はTUMUGI BAKERYの人気商品はトースト、フランスパン、塩パン。お客さんからは「おいしい理由は高級な小麦粉を使っているから?」と聞かれるそうですが、粉はパン職人が使う標準的な品質のもの。手間をかけることで、素材の持つおいしさを存分に引き出しているのです。

「人気のパンは毎朝のテーブルに並ぶパンばかりなんです。うちのパンを食べて、一日が始まる人がいるんだなと思うと、それってなんだかすごいことですよね」

店名に込めた願いとは

通常、街のベーカリーで購入されるパンは比較的自宅用の印象がありますが、実はTUMUGI BAKERYではパンを手土産用に購入する人もいるそうです。

「たまにお客様が “人に渡したいので、 このパンは別の袋に入れてほしい”とおっしゃる方がいるんです。箱入りのお菓子をわざわざ持って行くと、相手に余計な気をつかわせてしまう。だけど、うちのパンをちょっと持っていくと、気軽で、おいしくて、話題にもなる。お互いにちょうどいいそうです。うちのパンを通じて、そのお客様が別の人と楽しい時間を過ごしているというのはとても嬉しいですね」

「パンを通じて人とのつながりがあってほしい」。そんな願いを込めて野村さんは店名に「つむぐ」という言葉をいれたそうです。コロナが始まってから何度か大手飲食デリバリーの会社からサービス導入の打診があったそうですが、「お客さんの顔が見えない販売はしない」という理由ですべて断っているのだとか。

「店員とお客様が五輪とかの時事ネタをしゃべったりすることも多いですね。そうしたコミュニケーションも大事にしています」

ただパンを売るだけでは味気ない。こうして客の顔や反応を観られるのは、従業員の働く活力にもなるのだそう。それは客にとっての安心にもつながるのかもしれません。

「今の良い店の雰囲気を10年、20年後も維持していくことが、今後の目標です。原材料の高騰で、飲食店などは苦しさを感じる場面は多いと思います。そのなかでも、お客様に納得してもらえるような品質のパンを焼き続け、お客様と一緒に人生を歩んでいきたいです」

TUMUGI BAKERY

2010年7月にオープンした「TUMUGI BAKERY(ツムギベーカリー)」。トーストにロールパン、ソーセージのパン、デザート系のパンなどが並ぶ店内には、近隣に住むおじさん、おばさんから、区役所帰りのベビーカーを押す女性など幅広い年代の客が訪れます。人気商品はトースト、フランスパン、塩パン。

  • 住所

    〒236-0021 神奈川県横浜市金沢区泥亀1丁目18−7 睦月ビル1階 睦月ビル

  • 電話

    0457884110

  • URL

    http://tumugibakery.blogspot.jp/

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